再生医療

整形外科 理事長/院長 西池淳

保存治療と手術治療の間の「第三の治療法」

再生医療とは、患者さん自身の細胞や組織、またはほかの方の細胞・組織を培養などして、失われた組織や臓器を修復・再生する医療です。整形外科では軟骨、靱帯、腱、半月板などの治療に用いられます。
たとえば「膝が痛い」となった場合に、これまでは、まず薬やリハビリといった保存治療を行い、それでも改善しない場合は手術に移行するという流れでした。

再生医療は保存治療と手術治療のちょうど中間を担い、「痛み止めを使っても治らない」かつ「手術するにはまだ早い」という患者さんにとっての〈新しい治療法の選択肢〉として注目されています。
手術をしないわけですから、体への侵襲が非常に少ないというのが再生医療の最大のメリットです。

プロスポーツ選手が肘靱帯の治療のためにPRP治療(後ほど詳しく説明します)を受けたことで再生医療が注目を集めましたが、今ではアスリートに限らず、一般診療にも用いられるようになっています。

自然治癒力を生かして治癒を目指す

当院では国内でもいち早く再生医療を導入し、2022年現在で3年目を迎えます。これまでに200例以上を行い、再生医療を希望する患者さんは毎月のように増えています。
当院で行っているのは「PRP治療」「APS治療」「PFC-FD治療」、それから「自家培養軟骨細胞移植術」です。順に説明しましょう。

PRP(多血小板血漿)治療は、血小板の成長因子が持つ組織修復能力を利用し、私たちに本来備わっている〈治る力〉を高めて治癒を目指す再生医療です。患者さん自身の血液を採り、遠心機にかけて血小板を濃縮し、傷んでいるところに注入します。その後、組織が修復され、一般的には治療後2週間~3カ月後に効果の出現が期待できます。当院では主に靱帯の修復を目的にPRP治療を行います。

APS治療は次世代PRPと呼ばれ、PRPからさらに特別な加工をすることにより、膝関節性の治療に有効とされる成分を高濃度に抽出する方法です。軟骨に特化した再生医療であり、変形性膝関節症の治療に活用しています。

PFC-FD(血小板由来因子濃縮物フリーズドライ)療法は、採取した血液を専用施設に送り、PRPをさらに活性化させて血小板を濃縮したもので、変形性膝関節症や肘の痛み、腱鞘炎などの治療に使用します。

このほか、軟骨の一部を採取して培養し、移植する「自家培養軟骨細胞移植術」があり、主にスポーツ選手の病気(離断整骨軟骨炎)に対して行っています。

再生医療には医師の的確な判断が必要

ただし、なんでもかんでも再生医療を行えばいいわけではありません。症状や痛みの度合いによっては、再生医療の効果が期待できないこともあります。そうした意味でも、私たち医師が、患者さん一人ひとりの状態をしっかりと見極めた上で、適切な治療を提案することが大切です。
ですから当院では、患者さんが再生医療を希望したとしても、薬物療法で十分に効果が得られる場合や、逆に手術を必要とする場合には、再生医療をおすすめしません。

PRP治療、APS治療、PFC-FD治療は、いずれも日本では医療保険が適用されない自由診療です。また、施術に当たっては厚生労働省/PMDAの承認が必要です。

地域だからこそ再生医療が生きるケースもあります。たとえばご高齢の患者さんにとっては2週間に一度、注射のために長距離を移動して通院するのはたいへんです。それならば1年に一度、再生医療を受ける方が患者さんの身体的負担は大きく軽減されます。

このように私たちは、地域に根付いた病院として、地域医療における再生医療のあり方をもっと突き詰め、釧路地域の皆さまのお役に立てればと考えております。

PRP 多血小板血漿療法

釧路三慈会病院ではPRP(多血小板血漿)療法を始めました

治療の方法

治療は日帰りで終わります。

PRP

概要
関節腔内に投与することで、損傷した患部の疼痛を和らげる効果がある。また、組織を修復する効果が期待される
効果持続期間
6~12ヶ月程
治療後のリスク
(注入部位の痛み、腫れなど)
リスクはほとんど変わらない
品質の安定性
PRPは患者さま自身の血液から製造するため、患者さまごとに品質がばらつく可能性がある
アレルギーの可能性
自家移植のため比較的低いが、アレルギー反応などの可能性を完全には否定できない

ヒアルロン酸注入

概要
ヒアルロン酸は関節腔内に注入されるとクッションのような働きをし、痛みを和らげる効果がある
効果持続期間
6ヶ月程
治療後のリスク
(注入部位の痛み、腫れなど)
リスクはほとんど変わらない
品質の安定性
医薬品として承認されており、品質は安定している
アレルギーの可能性
品質管理された安全性の高いものだが、アレルギー反応などの可能性を完全には否定できない

治療にかかる費用について

この治療は公的保険の対象ではありませんので、当院の所定の施術料をお支払いいただきます。治療にかかる費用は初診料のほか、1回の施術あたり以下の通りです。

  • 遠心分離の回数1回の場合150,000円(税抜き)
  • 遠心分離の回数2回の場合400,000円(税抜き)

ご不明な点は医師・スタッフにお尋ねください。なお1回の施術あたりの費用は、患部の状態を確認した医師の判断、PRPの遠心回数等により変更となる場合がございます。

体外衝撃波治療のご案内

体外衝撃波治療とは

衝撃波を患部に照射する整形外科では新しい治療法です。ヨーロッパを中心に普及し、足底腱膜炎や腱付着部炎などの多くの疼痛性疾患の除痛を目的とした治療に応用されています。

欧米ではスポーツ選手を中心に、低侵襲で安全かつ有効な治療法として使用されています。

対象となる疾患

日本国内では難治性足底腱膜炎に対し、保険が適用されています。

国際衝撃波治療学会(ISMST)では、下記の疾患が対象とされています。

足部
足底腱膜炎・アキレス腱炎
アキレス腱付着部炎
膝蓋腱炎
上腕骨外側上顆炎・内側上顆炎
石灰沈着性腱板炎・腱板炎
骨折
偽関節・疲労骨折
その他
早期の離断性骨軟骨炎
早期の骨壊死

治療の特徴

  • 1回の治療時間は約10~15分です。
  • 一定期間をおき、複数回の照射を行います。

治療の流れ

  • セッティング
    (照射部位により体位が異なります。)
  • 圧痛点、または超音波エコーで照射
    部位を特定します。
  • 低レベルの照射から開始し、反応を見ながら徐々に出力を上げます。
  • 目的とするショット数に達したら終了します。
  • 複数回の場合は一定期間の治療間隔を空けます。

ご質問と回答

衝撃波とは何ですか?

衝撃波とは高出力の音波です。医療の領域では、衝撃波は1980年代から腎結石を破砕する際に使用されました。
現代の疼痛治療においては、結石破砕装置の約10分の1の出力が使用されています。衝撃波は痛みの部位に照射され、そこに治癒効果を生じさせます。

治療に痛みは伴いますか?

治療中は痛みを伴います。我慢できる範囲で出力を上げていきます。低レベルでの照射に耐えられない方は、途中で治療を中断する場合があります。

治療回数は何回ですか?

一般的に2~3回の繰り返し治療で治療効果が確認されています。

治療効果はどのくらいですか?

体外衝撃波による治療は、完全なる除痛を保証するものではありません。また患者様により治療効果や治癒期間が異なります。平均的治療効果は、60%~80%と報告されています。

考えられる有害事象は何ですか?

以下の有害事象が考えられます。

  • 腫脹、発赤、血腫
  • 点状出血
  • 疼痛
  • コルチゾン治療を受けた部位での皮膚損傷

米国の治験データでは有害事象に関しては、治療時の痛み・不快感、治療後の痛み、腫脹など既知の有害作用が観察されたのみで、皮膚発赤、照射皮膚面の痣形成、血腫、点状出血、瘢痕形成などの重篤な副作用はありませんでした。

体外衝撃波と超音波の違いは何ですか?

超音波は出力を強くすると、熱を発生する為、出力を強くすることができません。
体外衝撃波はほとんど熱を発生しない為、出力を強くすることが可能です。また、超音波は深部に及ぶにつれて、減衰しますが、衝撃波は減衰しない為、深部に照射することが可能です。

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